【私が自転車競技を愛する理由】 5.ダブルエース、トリプルエース
ツール・ド・フランスをはじめとする自転車レースにおいて、総合優勝を狙うチームは1人のエースを勝たせるためにほかのメンバーが頑張る、という話を前回までにしました。総合優勝を狙う選手のほかに、ポイント賞を狙うスプリンターや山岳賞を狙うクライマーを擁するチームもありますが、基本的には有力な総合系選手をチーム全体でサポートします。しかし、ツールで5年連続総合優勝を果たしているチームイネオス(旧名スカイ)は総合優勝を狙う選手を2人配置するダブルエース体制を取っています。今年のツールでは、G・トーマスとベルナルをダブルエースとして起用し、最終的に22歳のベルナルがコロンビア人初となる総合優勝を果たしました。
ダブルエースのメリットは、どちらかが調子を落としたときにもう1人がエースとして走れるということです。昨年のツールでは、調子を落としたフルームに代わってG・トーマスが総合優勝を成し遂げました。また、エースが2人いると大胆な戦略が取れます。今年のツールでは、トーマスとベルナルの2人が総合優勝を狙える順位にいたため、ベルナルが思い切ってアタックを仕掛けることができました。万が一ベルナルがアタックに失敗しても、他のライバルと共に走るトーマスが力を温存して走ることができます。リードしているのが同チームのベルナルなので、トーマスは追いつく必然性がないからです。ほかの総合系選手にとって、総合優勝を狙う選手が2人いるとマークする選手が定まらず、走りづらくなります。
またスペインに本拠を置くモビスターは、トリプルエース体制でジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスに臨みました。今年のジロではトリプルエース体制が見事にはまり、エクアドル人のカラパスが総合優勝を飾りました。しかし、ツールでは3人のエースが全員総合トップ10入りするも、優勝を果たすことはできませんでした。エースが3人もいると、その分アシストの人数が減ってしまい1人のエースにかかる負担が増えてしまうと思います。早めのタイミングでだれか1人がアシストに回って仲間のサポートに回っていれば、結果は違っていたかもしれません。
エースが2人いれば、取り得る選択肢が増えるというメリットがありますが、一人の選手にかけられるサポートが減少するというデメリットもあります。ダブルエース、トリプルエース体制におけるエースは、いつでもアシストに回る準備と覚悟を持っていないといけないのです。
次回は、スポンサーについて解説します。